コラム・エッセイ

43年目の花嫁を寿ぐ 明石 安哲(2009年4月25日)

もしあなたが43年前に突然姿を消した婚約者と再会してプロポーズされたら、どうするか。年齢のことはさておき、必ず迎えに来ると書かれた手紙を信じてその日を待っていた人なら、恐れも疑いもせず人生の一歩を踏み出すに違いない。が、そんな人は稀だから、大方は疑心暗鬼のうちに、なぜこんなに長く放っておいたのかと恨み言を並べるに違いない。それでも二人が結婚すると決めたら、ごたくを並べず祝福するのが友だちというものだ。

この4月にリニューアル・オープンした香川県文化会舘の外壁に掲げた「香川県漆芸研究所」の蒟醤製看板を眺めながら、43年目の花嫁をどう祝福すべきだろうと少し悩んだ。1966年の竣工オープンから半世紀近くを経て、文化会舘は本来の設計趣旨に沿う「漆芸館」として再スタートした。20世紀日本建築界の巨匠のひとりに数えられる大江宏が設計した和洋折衷様式の同館は、県内では貴重な総ヒノキの舞台を持つ芸能ホール(233席)や本格的茶室も備え、誰がどう見ても伝統工芸館というべき施設だった。それが複雑な事情から「総合博物館」として登録され、「現代美術館」として使われたことが間違いの始まりだ。

茶室にテーブルを持ち込むような不幸な顛末について同館の設計を依頼した当時の知事、故・金子正則さんから直接、話を伺ったことがある。金子さんはいずれ本格的な現代美術館を建設したら本来の漆芸館にと思っているうち知事の座を下りてしまった。その後は瀬戸大橋、新空港、高速道路など巨大公共投資に資金を奪われ、やっと順番が巡ってきたらバブルが弾けて新美術館もうたかたと消えた。もう永遠に誰も迎えに来ない、と花嫁が諦めかけたその時、突然の嵐がやってきた。リストラの嵐。

世は不思議の重なりあい。財政難で消えた漆芸館の夢が、超のつく財政難のおかげで突然蘇る。県歴史博物館を中核に美術部門まで含む文化展示施設をすべて併合するという超リストラ計画が出現し、その破壊的な見直し案の勢いが移転計画がとん挫して高松工芸高校の敷地に押し込められていた漆芸研究所を表舞台に押し出し、県文化会舘と手を携えての再出発につながった。

耐震工事も含め4億6千万円。新しい県文化会舘は讃岐漆芸の歴史的傑作を常設展示する一方、蒟醤、存清、彫漆など3大技法の講座実習まで自由に見学できる。不足を言えば切りはないが、現財政下ではほぼ満点。43年ぶりの花嫁。体はともかく心に皺はないだろう。その門出を心から祝福したい。
(ACT副理事長)
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