コラム・エッセイ

フェルメールとベンチャーズ 明石 安哲(2009年11月15日)

ヨハネス・フェルメールは17世紀オランダで活躍し、今では世界中に数多くのファンを持つ超人気画家である、と私は長らく信じていた。その確信に疑惑の影がさしたのは、数日前にロンドンから帰ったばかりという友人の一言だった。

 「ナショナルギャラリーでね、フェルメールをたっぷり見てきたわよ。日本だと押すな押すなの大騒ぎだからね。よかったわよ。あの青は最高」。

確かにフェルメールの青は絵画史の中でも特筆すべきものがある。フェルメール・ブルーと呼ばれ、時には“天空の破片”とも呼ばれるこの青い絵の具は、ラピスラズリという非常に高価な鉱石を原材料とし、それをふんだんに使ったためにフェルメールは多額の借金を残したとまでいう人もいる。確かにあの青の美しさはただ事ではない。

しかし私をさらに驚かせたのはもう一人の友人の言葉だった。「そうですよね。やっぱりフェルメールはゆっくりがいいですよね。ぼくも去年の暮れにメトロポリタンで特別展示があった時、一日ゆっくり見てきました。展示室にぼくだけなんて時間もありましてね」。フェルメールをゆっくり、たっぷり、展示室にただ独りなんてことは、現代日本人にとってただ事ではない。

その時である。不審な思いが頭をよぎった。もしかするとフェルメールってザ・ベンチャーズなの?

実は日本の若者音楽に衝撃的かつ根本的な影響を与えたエレキの王様ザ・ベンチャーズは日本での絶頂期においてすら、米本国では人気がなく、日本だけの外国人アイドルだったのである。日本でのコンサートは超満員でも、米国では散々だった。

もしかするとフェルメールも、という疑念は調べるごとに霧と消え、彼は間違いなく世界の巨匠の一人だが、日本での人気ぶりは尋常ではない。パンダに群がり、モナリザに群がり、ベンチャーズに群がった日本人がいまフェルメールに群がっている。

しかしそれは悪いことではない。The Venturesは1959年に結成、何度もメンバー交代を重ねながら、今年50周年を迎えてなお日本で人気を保ち、その功績でとうとう米本国でロックの殿堂入りを果たした。マスコミの影響はあったにせよ、日本人が独自の価値観で取捨選択した結果が、世界に認められるのは悪いことではない。自らの耳と目と頭で自分たちのアイドルを生み出す。この力があれば私たちは幸福になれる。
(アーツカウンシル高松副理事長)

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