
« 嫌いなんだよなあ、アンケート 上村 良介(2011年11月29日)|コラム・エッセイ:トップ
2011年10月5日、米Apple社のCEO・スティーブ・ジョブズが亡くなった。56歳だった。
21歳でガレージから起業して35年後にApple社を世界最大のIT企業に成長させた。その間、一貫してパーソナル・コンピューターに関わり、彼が生み出した製品は次々に世界を変えていった。AppleII、Lisa、Macintosh、iMac、MacBook、iPod、iPhone、iPad。その登場はいつも私たちを驚かせてくれた。
10月19日付「ニューズウィーク日本版」は彼の写真を表紙に掲げて「アメリカの天才」とタイトルを付け、2週にわたってApple社の歴史とスティーブ・ジョブズの業績を振り返って賞賛し、哀悼の意を表した。確かに伝説の名機「AppleII」を世に送り出すには天才を必要とした。しかしジョブズはプログラムの天才ではなかった。ハードウエアのエンジニアでもなかった。
プログラムの天才はほかにいた。彼と一緒にApple社を創設したもう一人のスティーブ、スティーブ・ウォズニアックだ。愛称ウォズはたった一人で基盤設計からOSまですべてを創造して、世界最初の本格的なパソコンを作り上げた。ICチップを効率的につなぎ、信じられないほど洗練されたプログラムを書き上げて、「ウォズの魔法使い」とも呼ばれた。
ではジョブズは何をしたのか?
彼は夢を見る天才だった。夢では失礼かもしれない。他人には夢にしか思えない未来の物語でも、彼には明確なビジョン(未来像)だった。彼はウォズが生み出した新しい電子回路が世界に何をもたらすのかを明確に理解していた。ウォズ自身より遥かに深くその仕事の意味を理解していた。彼は製品化するために必要な人材を集め、資金を集め、製品の素晴らしさを宣伝して時代を切り開いていった。AppleIIは600万台売れ、世界は一変した。大型ホストコンピューターで世界を牛耳ってきたIBMなど巨大企業の時代の崩壊を告げる出来事だった。
彼は天才的エバンジェリストだった。
英語で「evangelist(エバンジェリスト)」とは宗教の福音伝道師のことを指す。Apple社ではApple製品の熱心な信奉者の中から幾人かが選ばれて、半ば仕事としてApple製品の宣伝活動を展開し、エバンジェリストと呼ばれていた。Apple教の最高の信奉者はジョブズ自身だった。彼は新技術を理解しながら、技術者だったことは一度もなく、大衆が次に何を望むかを理解しながら、一度も大衆的だったことはないという不思議な人物だった。
まだだれも見たことのない世界を想像し、その素晴らしさを確信し、それを人々に伝え、世界に新しい一歩を踏み出させる人。アーツカウンシルも夢を見る天才でありたいと思う。
